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2007年06月27日

夢落ち

 朝のゴミ捨ての際などに近隣の人と擦れ違えば、一通りの挨拶を交わすのは当然のことであり、礼儀を重んじる私がそれを欠かすことはない。先方の返答はと言えば、多くの場合、「おはようございます」というものであるけれど、「今日も暑くなりそうですなあ」などという時候に関わるフレーズが織り交ぜられることもあるし、相手が古くからの知り合いのおばちゃんなんぞの場合、「お母さん、お元気かしら」などと尋ねられたりすることもある。
 ところが、例外発生。生まれて初めての新鮮な呼び掛けに出合った。昨日のこと。おはようございます、地主の旦那。突然の言葉に動揺したが、「地主の旦那」って、あんた、おっ、おっ、俺様は貧しい小作人を虐げるロシアの悪徳豪農かぁーっ、と、のけ反りながらも、辛うじて応じることができた私である。
 早朝から何とも不思議な攻撃を仕掛けてくる隣人がいるものだなあ、と顔を洗いながら不思議に思う。全く何なんだ、あのおっさんは、と歯を磨きながらなおも不思議に思う……うわっ、そこで気づいた、俺って、先週から地主になったんだった、と。先様はからす新聞の愛読者なんだろうな……っていうか、それ以外ありえん。
 地主様ねえ、と思いながら、髭剃り後の顔を眺める。何かちがうなあ。何だろう。ううむ。髪形かな。そうだ、そうに違いない。ってんで、すぐに床屋に飛び込みましたよ。
 どうしますか、お客さん。あのぉ、地主カットっていうか、地主的なカットっていいますかね、とにかく、そんな風味でお願いします。しくよろ、しくよろ。床屋のあんちゃんは怪訝そうな面持ちながらも、承知致しました、と答える。偉い。それでこそプロフェッショナルというものだ。トレードマークのアフロともお別れか、と寂しい気がしなくもないが、兎にも角にも、あとのことは職人業に任せ、眠らせていただく。
 程なく起こされて、寝呆け眼で鏡を見れば、何というか、これって普通の五分刈りな感じじゃん。そうは思うものの、如何がですか、と問い掛けるあんちゃんの笑顔を見たら、苦しゅうない、と答えざるを得ず。私ってどうなんでしょう。

 のろくさ歩く帰り道、目が醒めきってはいない感じがして、これって全部夢だったりしてね、なんて。地主だの何だの、ってのも、じぇーんぶ夢だったりして。全太さん、安易な夢落ちは駄目ですよ、って津田くんに怒られそうだな。ふふふ、などと薄ら笑い。擦れ違った人、みな、気味悪がりますがな。
 夢だったのか。これで支払いの心配もいらねえや。助かったよ。なんて、救われた気持ちで家に辿り着く。おや、書留が届いておる。書留なんて珍しい。はてさて差出人は、って、あっ、こないだクリックしてしまった土地屋ではないか。中には、中には、中には、当然、権利書のようなものが入っており、うわぁ。うがぁ。

投稿者 zenta : 2007年06月27日 19:50

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